2.星は闇に隠れり







私の人生でもっとも輝かしい時の中心にいた人物が亡くなった。

学生時代、私は「世界は自分たちのためにある」と思っていた。仲間が力をあわせれば何でもできる。そしてそれが思春期の若者の傲慢さから来る思いあがりだと気づいた時でも、少なくとも世界は彼のためにあるのだと信じて止まなかった。


だから私は信じられなかった


彼は卒業後、すぐに同寮の魅力的な赤毛の魔女と結婚して、今年には息子もできた。この闇に飲まれそうな世界の中で、それでも彼は幸福の絶頂にいるはずだったのに。


しかし、信じる信じないという以前にジェームズの親友として私にはやらなくてはいけないことがあった。
こどものような無邪気さと、正義感が人一倍強かったシリウスが本当にジェームズを裏切ったのかを確認しなければならない。

もし、そうだとしたらシリウスは 私が持っているものの中でひときわ強い輝きを放っていたものを穢したのだ。

そして私は裏切りの代償をジェームズやリリー、ハリー、そしてピーターに代わって彼に請求しなければならない。遺された一人として

しかし、それは叶わなかった。私が現場についたころには取締局が爆発で吹き飛んだピーターの少しでも形の残った肉片を探していてシリウスはすでに当局によって連行されていた。その後、たいした尋問も裁判も受けずにアズカバンへと投獄された。全てはたった2日間の出来事だった。
アズカバンに入って正気を保てた人間はいない。もはやシリウスは死んだも同然だ。
どうしてシリウスがジェームズを、リリーを、ピーターをそして幼いハリーを裏切ったのかは永遠にわからない。


そうこうしているうちに魔法界はヴォルデモードが現れる前の静寂を取り戻した。

ジェームズとリリーの死、ハリーが魔法界から去ったこと、シリウスの投獄。それら全てのことが私の与り知らないところで動き知らされた頃には全てが終わっていた。


私は何も見ていない!まだ何もしていない!
彼らが死んだところも、無事に生きているところも見ず、裏切り者に報復もしていない


***


私はイギリス中を箒で飛び回って彼らを探した。当てはなかった。それでも何もしていないよりはましだった。


行く先々は光に溢れていた。

どうしてみんな笑っている?
この喧騒はなんだ?

魔法界の住人たちよ、どうして頭上に輝く日の光を享受している?
どうして瞬く星の下を歩き、月の満ちていくのを穏やかに見ている?

少し前までは太陽を拒むように目深にローブを被っていたのに、
自分の姿が光に照らされないよう星から逃げ、月が欠けることのみを願っていたのに


三晩かけてイギリス中の町を探したのに見つかるものはすべて嘘だった
眼下に見える大勢の笑顔も、幸福も、全てが嘘で虚ろで、それはヴォルデモードがもたらした最後の暗闇だった。その暗闇に私の大切な人達は飲まれてしまった。


「土をかけてやってくれんかのう?」

外に意識が向いたのは恩師の言葉を聞いてからだった。


***


本当ならその家は暖かな笑い声のする幸せに溢れた家だったはずだ。
静まりかえった家の中で、私は物言わぬ人になってしまった二人に会った。

リリーはとても穏やかな顔だった。
ジェームズは泣きそうな顔をしていた。
ダンブルドアの話によるとジェームズの方が先に命を落としたという。きっと死の間際もリリーとハリーの安否が心配でしようがなかったのだろう。

彼の遺志は私が引き継ぐつもりだ。リリーは亡くなってしまったけれどハリーは必ず守ってみせる。

ゴドリックの谷を一望できる場所にある墓で、私は二人に土をかけながらそう決心した。何かすることがあるというのはいいことだ。今にも埋まってしまいそうな二人を見ていられず私は彼らの家へ逃げるように向かった。


「この家にあるものは全て彼らの息子であるハリーのものです」

「そうは言ってもこの家は例のあの人が消えた場所だ。証拠品として家の中にあるものは全て我々魔法省が管理する」

自分を睨みつけるマクゴナガル教授に魔法省の役人は事務的にそう言った。

「あの子は父も母も失った。せめて形見の品だけでも遺してやれんのかね?」

ダンブルドアの静かで重い声に圧された彼らは少しだけ譲歩して、ジェームズが死の間際まで掛けていた眼鏡が唯一の形見として彼の息子の手に渡ることになった。

私はそのやり取りを見て、急いでジェームズの元へ走った。丘に続く参列者達の列を掻き分けて、非難の眼差しを送る彼らのかけた土で埋まりそうなジェームズの顔を改めて見る。その瞼が開くことはもうない、その口が軽やかに動くことはない。形見分けと聞いて、私はようやくジェームズがもういないのだとわかったのだ。
後を追って来たダンブルドアに私は言った。

「先生。私にも形見をいただけないでしょうか」

そして私はジェームズの髪を形見分けしてもらった。
癖の強く茶色い髪を私はしばらく見ていた。すでにジェームズとリリーは土の中でその上には綺麗な冷たい墓石が乗っていた。

やがてあたりが真っ赤に染まり、夜になった。涙の谷とも言われるこの谷は今夜も泣いていた。降りしきる雨の中、私はそれでも彼らの墓を見ていた。彼らの死を自分に刻み付けるために半ば睨むように。

「おまえさんにも休息が必要じゃな。時として何も考えずに休むことが大切じゃよ」

何時間も突っ立ったままの私に言ってきたのはダンブルドアだった。
彼にに促されて、私はホグワーツに帰った。
私一人だけが還ったのだ
彼らがいないホグワーツをはたして私はホグワーツと呼べるのだろうか。

















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*)リーマスさん錯乱状態。もう一人のメインが出てこない・・・
次の話のタイトルは違いますが、いちおうこのシリーズは人物を天体に喩えてタイトルを設定しています。
1話の太陽はいわずもがなでJのつく人ですが、誰が星なのかは読んでくださった方の解釈にお任せします。