インテルメディオ 02





「お主は猫派だと思ったんだがのう」
「は?何ですか師叔」

それより仕事に集中してくださいよと胡散臭い者を見るような目で楊ゼンは上司である太公望に返した。

出征が近いこの頃、皆寝る間を惜しんで業務に勤しんでいるというのに肝心の軍師である彼が手本を見せないでどうするのだ。
下のものの手本になるよう行動する義務が上の者にはある、というのが生真面目な楊ゼンの考えであった。


「いや、吼天犬のことじゃよ。お主が飼うなら犬より猫のようが気がしての」
「・・・師叔。吼天犬はペットじゃありません。宝貝です」

「似たようなものであろ。ほれ、このあいだブラッシングをしてたではないか」
「あれはメンテナンスの一環です」
「ま・宝貝でもペットでもよいが、どうして犬型にしたのかと疑問に思ってな」

だったら最初からそう言えばいいのに、どうしてこの人は!
腹の中でなにかが煮えてきそうな気がした楊ゼンだった。


「猫はきまぐれですから、不確かな物は好きではないんです」

欲しいのは絶対的な、不変な何か。

「しかし、不老不死である仙人が不変のものを求めるのもおかしいの」
「そうですか?」
「一般的に仙道というものは一瞬の美であるとか変化を好む者が多いであろう。おぬしの師匠も園芸が趣味だし」

だから時折、彼らは地上に降りて人間たちと交流をはかろうとする。

「お主はわしが会った誰よりも仙人然としているのに仙人らしからぬ好みを持っておるのう」


そうですかぁ。

そうじゃよ。

ハァ。何だかその評価は納得いかない。

そういうことにしておけ。






周公旦が一向に上がってこない書簡を不信に思い、彼らの部屋にやってくるまで太公望と楊ゼンはそうしていたらしい。










*)
インテルメディオ=幕間劇。
落ちがない・・・