ビーストマスター






今日の夕飯はとろろ蕎麦にしよう。
子供の頃は口が腫れて大変なことになった山芋だが、最近では大分平気になってきた。

あの味を知ったのはいつの頃だったか
あぁ、きっとあの時だ。
まだ、血なまぐさい戦争に参加していなかった幼い頃、幼馴染にからかわれたのだ。

「お前、山芋食べて口が腫れるタイプだろう。顔色的にそんな感じがする」

意地を張って、そいつの目の前で食べてやったら、本当に腫れてしまい言い当てられた悔しさとか恥ずかしさで目まで腫らしてしまいそうになった。


「何、一人で百面相してんだよ。気持ち悪ぃな」

背後から声がした。

「な、なんでおまえがここにいる?」

「腹減った」

「そしてなぜ当たり前のようにそこに座る?」

「今更、言うなよ」

ハァと溜息を吐いた。
たぶん、彼は家族以外では一番付き合いが長い人間の一人で家が近所でよく面倒を見たものだ。昔は自分の後をちょこちょこと着いてきて置いていくと大泣きするような子供だったのに。

いつからこんなに態度がでかくなったのだろう。
身長が伸びなかった分が態度に回っているのだろうか。
「思いっきり、心情吐露しやがって、態度と身長は関係ねぇだろう」
やるか?とまるでチンピラのような顔つきでガン飛ばし来る高杉だが、ここは俺の家でつまり此処では俺が法律だ、効果はない。

「食べたいのなら、働け。働かざる者喰うべからずだ。そこの3番目の引き出しに海苔があるから千切りしてくれ」

とろろ蕎麦にはやはり刻み海苔はかかせない。歯について歯磨きが面倒だが、好きなものはすきなのだからしょうがないし、自分は結構、細かいところにこだわるのだ。

さすがに蕎麦と長芋だけでは夕飯にならないので、てんぷらも揚げてみた。厳しい懐事情の中、なんとかイカとエビを捻出した。



今では珍しくなってきた卓袱台を囲んで、出来立ての蕎麦を食べる。
誰かに手ずから物を作ってやるのは久しぶりだった。つい、味はどうなのかとか気になってしまうのだが、そもそもこいつが来ることを予定して作っていないので、ここで評価を求めては自分が一歩も二歩も高杉に譲っているよう気がするので言わない。

「手、どうしたんだ?」

手というより爪を指していた。先日の名残を残している赤い爪は西郷殿の店の店員が塗ったもので、取り方がわからないからそのままに放置していたのだ。
それにしても、よりにもよって食った後の一言がそれとは、相変わらずこの男は配慮というものがない。気配りは古きよき日本人の尊ぶべき特性だというのに。
そこらへん、幼稚園からやり直して来い。

「・・・おまえ、変なところで細かいよな。あいかわらず」
「おまえらが、大雑把なんだ。おまえといい彼奴といい・・」

最後まで言葉を発することは叶わず、いきなり肩を押されて床に倒された。
不意の衝撃で椀が畳に落ちて、折角揚げたエビのてんぷらが転がる。

「・・・最期に取っておいたというのに」
「ヅラ、これがどういう状況かわかってんのか?」

「高杉に、わけもわからず押し倒されて馬乗りに乗られている。ついでに右手首を掴まれて痛いのだが」
「・・・危機感持てよ」
「あの程度のこと、反応できなかったわけではないが、抵抗すると燃える性質のおまえのことだから、無抵抗なら萎えるかと」


「〜っ」
高杉呆れているようだが呆れたいのはこちらだ。

据わった目で見ていたら、高杉が上からどいた。


今後、この手は使えるかもしれない。


自分の妙案にほくそえんでいる傍ら、「今後」と言ってしまえるくらいに、高杉のこの行動が恒例化していることに気づいた。










*)
ようやくCPらしきものが仕上がりました。高杉さんはどうやらヘタレ確定のようです。タイトルは○ケモンマスターからではなく、ス○イヤーズの某神官の上司から取りました。(うわ、マニアックでヒクよ)
某神官で石田○にはまったんでした・・・。(でも桂は合わないような・もっとふてぶてしい声を希望)