不可逆時間



久しぶりに上客が来た。羽振りがいいわけではないが、ここにくる男達の中で断トツに容姿がいい。どうせすることが同じならたくさん報酬をくれる男かいい男がいい。残念ながら両方の要素を持っている人間には終ぞ会ったことがなかった。

三味線を爪弾きながらちらりと斜向かいに胡坐をかいている男を盗み見る。

散切り頭が主流のこの時勢にあって、髷でもなく結っているわけでもない。後姿だけを見たら女みたいだ。

顔立ちも、化粧を施したらそう見えなくもない。全体的に繊細で、黒目は大きく垂れ目勝ちの目元に薄い唇。
だが、表情は男臭い、精悍なものだった。
背は高めだし貧相な体つきでもなさそうだ。その証拠に徳利を持つ手はごつごつしてそうだし、腕にはしっかりと筋がついている。
この容姿ならこんなところに来ずとも女には不自由してなさそうだ。

「その髪・・・」

あ、声もいい。低くて凛とした、深い湖の水面みたいな感じ。

「目立つでしょ?本当は金に近い茶髪なんだけれどね。同じような色をした女が増えたから思い切って抜いたのよ」

「・・・将来ハゲるかもしれんぞ」

髪のことを問われるのはよくあることだけれど、まさかこんな切り替えしがくるとは予想外だった。

「あらやだ。あなた女にもてないでしょ?それに将来のことを心配していられるご身分でもないしねぇ」
「明日のパンより今日のパンの心配、というわけか」
「そおいうこと」
「すまんが、俺はあまり金をもっておらんぞ」
「そんなのわかっているわよ」
「では、どうして俺を?」
「そうね。顔がよかったからかしら?そういうあなたはどうして私をご指名で?」
「少し、昔の知り合いに似ていたからかな」

眉間に皺をよせて言った彼の顔は手元の酒を見ているにもかかわらず、遙か千里の先を見ているかのようだった。





くすくすと私は笑った。
今夜は楽しく過ごせそうだ。







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ヅラも人並みに女の人とチョメチョメしてるといいなー。それでも銀さんのこと忘れていないのがいいです。いきなり桂→銀(日記参照)