クモリガラス越しの情景を求めて






ここ2週間ほど、相変わらずホグワーツの空は未練がましい女のようにしくしくと泣いたままである。

そのせいでクィディッチの練習ができないジェームズは仲間たちと自寮の談話室で明日の薬草学で仕掛けるいたずらについて話し合っていた。

「雨はきらいだけどさ、雨の後にたまに虹がかかることがあるじゃん?あれってじとじと降った雨も許してやりたくなるくらいキレイだよな、だからそんなに雨はキライじゃないな」

窓の外を見ながらジェームズと同じくクィディッチの練習のできないシリウスがそう呟いた。何も知らないものが見れば、気だるそうに頬杖をついて語るその姿は口にした内容も相まってある種の美しさも感じるのだが(実際に談話室にいる半数の女子は彼にのぼせ上がっていた)・・・

「うわっ、シリウス、詩人だねー」

長年の付き合いのジェームズは鳥肌が立ったと言わんばかりに顔を顰めた。

「な、なんだよ、ジェームズ。リーマスはそう思わない?」
思わずひいてしまったジェームズを見て、シリウスはリーマスに話を振る。

ジェームズはリーマスに同意を求めても無駄だと思ったが黙っていた。

「うーん、シリウスって普段の言動に似合わず意外と詩人というかロマンティストなところがあるよね。まぁ、外見とはマッチしてるから様になるけど」
返ってきたのは同意ではなく柔らな否定だった。リーマスは柔らかいイメージとは裏腹にかなりドライだ。体質で苦労しているせいか、同室の誰よりも現実的である。

 対してシリウスはリーマスが言ったように存外ロマンティストだ。いつもは口は悪いし、行儀も悪いがやはり育ちがいいせいだろう、ジェームズからするとムリしてワルぶっているように見える。
 リーマスに至ってはそれに対して「思春期って不良に憧れる年頃なんだよね」と思春期をとうに通り越したかのようなコメントをしている。
 シリウス同様、“不良に憧れるお年頃”のピーターはそんなシリウスに憧れている


いたずらを仕掛ける時は息がピッタリな彼ら『いたずら仕掛人』だが一心同体というわけでは当然ない。時にはこのようなズレも生じるのだ。
別にそれが普通だとジェームズは思うしみんなが同じ考え方をしたらおかしいを通り越してキモいと思う。だがジェームズは続く長雨でクィディッチ練習ができないせいか非常に機嫌が悪く、普段はなんとも思わないシリウスのロマンチック発言に理由もなくいらいらした。

―僕はこの雨をただの忌々しい自然現象にしか思っていないがシリウスはささやかな幸せ(=虹)の代価と考えている―

ジェームズはシリウスの大物の片鱗を垣間見た気がした。

・・・セブルスだったらなんて思うかな

突如浮かんだ疑問


シリウスやリーマス達ならいいが、彼には自分と同じ波長でいてほしいジェームズであった。


 *数時間後*


「というわけで、来ちゃったv」
「語尾にハートマークつけるのはやめろ。気色悪い」
就寝前に訪ねてきた自称恋人にセブルスはいつも以上に冷たく言った

「へ〜。いいんだそんなこと言っちゃって。明日の飛行術の授業で突然、僕の箒が暴れだして飛行中の君とクラッシュしちゃったりするかもよ?」

「・・・お、おまえはグリフィンドールだろう!

「やだなぁ、相手の弱点をつくのは戦術の基本だよ」
「スリザリンよりいやなやつだ」

1〜3年生まで学年次席、4年生では主席、今年は監督生を務めるスリザリンの秀才セブルス・スネイプの唯一にして最大の苦手科目は飛行術だった。

「どうして飛行術が苦手なんだい?君、
実は運動神経いいのに」

低学年の頃はあまりにやせすぎていて十分に体を動かすことができるほどの筋力がついていなかったが、セブルスはここ数年で格段に体格がよくなり現在では意外と思われるかもしれないがスポーツもできた。

成長した今は−それでも他の同級生より随分と華奢だが−選択授業のフェンシングでトップの成績を誇っている。



「・・・虹は好きだ」

「へぇ、なんだかセブルスらしくないな。
「ふん、貴様の言いたいことはわかるが面と向かって言われると腹が立つ」

そう言いながらセブルスは小さく欠伸をした。最近寝不足らしいセブルスのその仕草を見ながらジェームズは周囲が持っている彼のイメージを想像できる限り列挙してみる。 
陰気、ドロドロの髪の毛、青白い、魔法薬学、呪マニア、厭味ったらしい口調、スリザリン生。
とてもじゃないが虹を好むような少年には見えない。むしろ土砂降りの雨とか曇り空のほうが似合うな、と失礼なことを考えていると

「質問に答えてやったのだから、もう寝かせろ。私は寝不足なんだ」
と言ってセブルスの部屋から追い出されてしまった。


僕達はクモリガラス越しにしかお互いを見ることができない。
はっきり見えないから相手のことを見誤ることもある。

けれどもクリアーではないからこそ、その向こうにあるものを必死で見ようと努力することもできるんだ。






「・・・明日は晴れるといいね」




ジェームズは分厚い樫の扉の向こうにいるひとにそう言い残して今日のところはスリザリンを後にした。
















*)ほのぼの風味のジェセブです。そしてセブルスがフェンシング得意というのは完全に私の趣味もしくは願望です。
ちなみに、私にもっと力があれば
セブルス、ジェーを追い出すのに失敗→ジェームズ、調子に乗ってセブルスを押し倒す→裏(うちにはないですが)行き
という展開もできたのかなーと思い返してみましたが恥ずかしいのでムリでした。もう少し修行が必要でした。