枕に違和感があったので裏返してみた。


いつも肌身離さず首に掛けている十字架があった。






リトル・ダーティ・シークレット







すべてを奪われたヨブ
神は試したのだ。彼の信仰を。ヨブはそれに答えた。そして神以外の全ては彼から去った。それでもシモンは幸せだった。


この話を教会で司祭様に聞いた夜、俺はなかなか寝付けなかった。初めて神さまが怖い、と思った。

準さんは神さまなんていないって言う。だから、神さまを恐れない。
でも俺はこわい。いつか、かみさまが俺の大事なものを、準サンをヨブにしたように奪ってしまうのではないか時々思う。
こんなことは準さんには言わない。絶対に俺の悩みを神さまへの恐怖心を見せてはいけない。俺が困っているのを知ったら、きっと準さんはあっさりと、本当に今日の部活の練習メニューが打撃練習から守備練習に変わったのを了解するようなくらいの平然さで俺との関係を終わらせるだろう。


十字架から目が離せない。


神さまごめんなさい
ごめんなさい、天国のおばあちゃん。利央はもうあなたに会うことはできないよ。

神さまを怒らせても、ばあちゃんを悲しませてもそれでも譲れないんだ

ごめんなさい。


「利央。何泣いてんだ?」

少し早い朝の懺悔をしていると、掠れた声がした。

「・・・あ」

「気づいてなかったのか?自分が泣いていたこと」

「うん。準サン、いつのまに起きてたの?」

「ほんのちょっと前。また寝ようと思ったらお前が泣いてっから。しゃーねーな、利央は。怖い夢でも見ましたかー?」


まるで和サンがいつもするように準サンは俺の頭をわしわし撫でた。寝ぼけているのだろう、昼間の俺をおちょくる態度は微塵もなくて、彼の腕も顔もとてもやさしいものだった。

それでも、視線は固定されていて、居た堪れなくなった俺は頭を撫で続けている眼下の彼との行為を始める前にしたように、枕で隠した。


















*)
利準のつもりなんですが、準利ともとれそうです。普通に事後です。
ヨブ記は前半のみの内容で、後半は信仰が報われて彼は以前の倍の財産と新しい家族に恵まれてハッピーエンドです。ただ、礼拝中の聖書朗読は話の一部のみが取り上げられるので、作中の利央は↑のように思ってしまったわけです。
というか、利央が電波な子ですみません。本当は準さんを電波にしたかったんだけですけど。