「ルーピン先生!スネイプの弱味を教えてください」
グノシエンヌ
後ろから聞こえてきた生徒の必死の声にリーマスが振り向いたのは昨日から降りだしていた雪が止んだ昼休みのことだった。その声の主達の顔を見なくてもリーマスはすぐに誰かわかった。
グリフィンドールの3年生、ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーだ。
だが彼の予想は少しはずれて、その目に写ったのは二人ではなく三人だった。
二人の後ろにハーマイオニー・グレンジャーがいたからだ。
「スネイプ先生の弱みなんて聞いてどうするんだい?」
彼らの話によると、先週の授業を休んだリーマスに代わって教壇に立ったセブルスが多量の課題を出したらしい。しかも明らかに未習範囲の教科書の後ろのページからである。
「ルーピン先生お願いします!助けてください!」
置き去りにされた犬のような目でこちらを見てくるハリーとロンにリーマスは困ってしまった。
確かに自分はDADAの講師である。セブルスの方が権限が大きいが彼は代理として授業を預かった身でなので何とかなるとハリー達は思ったのだろう。ルーピンは自分の考えを彼らに伝えた。
「本来のDADA講師は私だが、先週の授業を担当したのはスネイプ先生だ。彼の出した課題を撤回、減少できるのは彼しかいないよ。でないと内政干渉になりかねないからね」
「すみません。ルーピン先生。二人とも、これで出された課題が撤回されるわけないってわかったでしょう?往生際が悪いわよ」
二人を諭しているハーマイオニーはおそらく課題を終わらせたのだろう。
「そういえば、どうして私に聞いてきたんだい?」
DADAの担当者である自分に聞くのは当然かもしれないが、そもそもホグワーツは出された課題にとても厳しく、撤回されないことくらい3年になるハリー達はわかっているはずである。
「いえ、ハーマイオニーが・・」
「ちょっと、ハリー!それは言わない約束でしょう」
「言ってごらん。ハーマイオニー」
その様に好奇心を覚えたリーマスの有無を言わせないプレッシャーに負けたハーマイオニーは授業で自信たっぷりに答える声とは正反対の質で応えた。
「スネイプ先生はルーピン先生の前だと、何というか、感情の幅が大きくなるような気がしたので」
「でも、彼は大体いつも怒っていたりして意外と感情というものがある人だよ」
「うまく言えないんですけど、そういう意味ではないんです。もっとこう、お二人が一緒にいると雰囲気が違うというか」
「そ、そうかな」
若干引きつりながらも、持ち前の笑顔と『スネイプ先生と交渉してみる』という約束でリーマスはその場をやり過ごした。そしてすぐにハーマイオニーを脳内の対セブルス要注意人物リストに入れた。
***
「女の子って鋭いって思ったよ。これから気をつけなくちゃね」
リーマスはやれやれと言った感じで枕に倒れこんだ。ほどよい疲労が心地よい。
このまま眠ってしまおうかなともう見慣れた天井を見た。
「それで、最初の弱みについては何かアドヴァイスをしてあげたわけか?お優しいルーピン先生は」
セブルスの方は数時間前に中断されていた読書を今度こそ完了させたいらしい。
枕にうつ伏せになった姿勢を崩さず声だけ投げてきた。
「彼らの望むような君の弱みなんて私は知らないから、アドヴァイスのしようがないよ」
予想外に話に食いついたセブルスに気をよくしたリーマスは当然、睡眠よりも会話を選択し、よっこらせと天井に向いていた視線を顔ごと隣の人に移そうと仰向けから横向きに体を動かした。
「その言い方だとそれ以外の弱みなら知っているようだが。あと、最近言動が爺臭いから直せ」
リーマスの話に付き合いながらもセブルスはあと数ページで終わるな、と本の方に意識を集中させていた。
「そうだね、例えばこの間バスタブで本に熱中しすぎてあやうく死にかけたとか?あ、あと」
一旦言葉を切ったリーマスは体を起こした。
そして相変わらずうつ伏せの彼の耳の渕を甘噛みしながら続きを言った、いや囁いた。
「後ろからされるのが好きとか?」
「・・・っ、この万年発情期が。言っておくが、課題は撤回しないからな。」
「オスの発情は受動的なものだし、課題に関しては私に責任はないということで」
「何が『やさしいルーピン先生』だ。その言葉、生徒に聞かせてやりたいな」
その言葉にリーマスは哂って答えた。
「別に聞かれてもいいけど。たぶん、生徒に発言の前後関係を聞かれるよ。」
「その生徒とはグレンジャーのことか?いつの間にかロリコンに宗旨替えしたとは知らなかった」
リーマスから逃れようとうつ伏せの状態から起き上がろうとしたセブルスだったが、体格で勝るリーマスに逆に押さえつけられてしまった。
「どこをどう取ればそうなるんだか、もしかして私のほうが生徒に人気あるから嫉妬してる?」
リーマスはそう言いながら先ほどから弄っていた耳に名残惜しげに口付けてから離れた。
下ろしてある髪を掻き揚げて耳の後ろから項にかけて唇をくっつけていく。残すと怒られるのでここには跡は残さない。
セブルスが軽く羽織っていたパジャマを引っ手繰ったらさすがに抵抗しだした。
「おい、いい加減にしろ!」
「悪いけど止まらない」
露になった肩甲骨のラインを撫でられて、息を呑むその姿はひどく扇情的に映って、さらに背骨に舌を這わせる。
すでに紅が散らばっている背中はさらに紅を足していかれた。
疲れているからやめろというセブルスの意思は全て却下され続けた。
***
今夜2度目の虚脱感にセブルスは溜息を吐きながら言った。
「生徒達に気づかれたくないのはわかるが、万一のことを考えろ」
彼はあえてその万一のことについて詳しくは言わない。言わずとも自分を胸に押し付けているこの人狼はわかっているだろうと思っているので。
「うん。君の言うことはとても正しい。生徒には私を殺す方法を覚えておいてもらわないと、私が殺してしまうかもしれないし。私は君に甘えていたみたいだ。脱狼薬があるから大丈夫ってね」
「・・・脱狼薬を飲んでいれば満月のお前は無害だ。きちんと飲んでいればの話だがな。私が言いたいのはそういうことではない。」
少ししたから睨んでくるセブルスに察するものを感じてリーマスは少し暗い声で応えた。
「僕はとても臆病なんだ。でも必ず今年中には伝えるよ。・・・見損なった?」
「見損なうも何も、端からお前には何も期待していないから安心しろ。課題は撤回する」
「・・・セブルス」
「私はもう寝るからいい加減に黙れ」
「愛してる」
「・・・」
*)
ルーピン先生はピロートークがとても上手そうだと思って作った話。サティのグノシエンヌ第1番をイメージして。サティはジムノペディの方が好きなんですがね。
私が思いつくリマセブ話は事後ネタが多いです。なので書いてて恥ずかしくなってだいたいがボツになります。
それにしてもなんて色気のない文章なんでしょう・・・。