雨だれ
島国に生まれ育っていながら僕は海を見たことがない
でも幼い頃、海の干満は月に左右されるということを母から聞いてから妙な親近感を感じていた。
まるで僕みたいだ、と
窓から見えるグラウンドはまるでいつか絵本で見た海のようだった。
いつもはしとしとと降る雨が今夜は熱帯のスコールのようなどしゃぶりで、その降る音は滝のようだった。これでよく同室の3人は眠ってられると僕は彼らに正直、感心した。この音に僕は起こされて眠れなくなくなってしまったというのに。
どうせこのまま寝ようとしても眠れないし、こんな大雨は滅多にないだろう。
即席の海を見に行こうと僕はグラウンドに向かった。
消灯時間が過ぎた時間に一人で出歩くのは初めてだなぁなんて呑気なことを考えながらふと空を見上げてみると大嫌いな月は真っ黒に塗りつぶされていた。
雨の夜は月が隠れているのでほっとする。
雨は冷たいけど誰彼かまわず降るという点では少なくとも月よりは平等だ
雨に当たらないようにグラウンド脇の廊下をぶらぶら歩いていたら突然、雨が止んで分厚い雲のカーテンの隙間から三日月が顔を覗かせて暗い廊下に少し光が差した。光の差す方向に黒い人影を見つけて僕はぎょっとした。
「何をしている、リーマス・ルーピン」
声変わりをはたしていない声が響いて、まるでその声を合図にしたかのように月が隠れた。
先ほどまで顔を覗かせていた三日月の眉を不審気に歪めたスリザリン寮のセブルス・スネイプがそこに立ってたのだ。
しかも傘をその手に持っているにもかかわらず彼はズブ濡れだった。
「君こそ、どうして傘を持っているのにそんなにズブ濡れなのかな?」
絶対、スネイプの方が怪しい。
「こう、傘をさすと頭は濡れないが足は濡れてしまう」
僕の質問に答えながら彼は服を乾燥させる呪文を唱えた。
「別にいいじゃない、足くらい」
暖かい風が吹いて先ほどまで濡れていた彼の服や髪が瞬時に乾いた。
「ほぅ、貴様は足が頭より劣っていると思っているのかね」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「まぁ足を失ってもかろうじて生きていけるが頭を失ったら生きていけないだろう。
その点では頭のほうが大事かもしれないが」
訳のわからないことを言いながら彼は何やらぶつぶつ考え込んでしまった。
あのー、聞いてます?
なんで雨と傘でそんなところに辿り着くわけさ、君は。
少々ぶっ飛んだ思考に思わず笑ってしまった
「何がおかしい」
「ごめん。ただどうして傘と雨でそういう考えが浮かぶのかなぁって思って」
「この間図書館で読んだマグルの本でそういう話があったのを思い出したからだ」
どんな話か、と聞いてみたら、こんどはちゃんと僕に向かって説明してくれた。彼の話しぶりは昼間のジェームズやシリウスとの口論から比べるとお世辞にも流暢とはいえなくて断片的に発せられる言葉をパズルのように再構築してつなぎ合わせなければ意味がわからないこともあった。でも僕は悪趣味なことに彼の考え方と突き放すような態度とそれでもきちんと僕の質問に答えてくれる姿勢気に入ってしまった。
そうして話を聞いていくうちにどんどん内容が飛んでいってしまった。
博識、というなら彼はルームメイトで親友のジェームズには叶わないかもしれない。でもジェームズとはこんな話題で話すことはない。彼と話すことは次のいたずらはどんなのにしようかとか宿題やテストをいかにして手をなるべくかけないでクリアすること。
そしてジェームズ、シリウス、ピーターの仕掛人仲間は決して自分に突き放すような態度をとらない。彼らは僕の親友だ。だから僕の体質も知っていて常に、ではないけれどそれを考慮してくれている。
でも目の前にいるこの痩せたスリザリン生は友達ですらない
僕はグリフィンドール。彼はスリザリン
彼は普通に過ごしていれば接点がない相手。もっとも、ジェームズやシリウスはスネイプと一日一回は小競り合いを起こしているけど。
彼はもとから僕(グリフィンドール)が嫌いなのだから別に突き放すような態度をとられても気にならない。彼も僕からいい印象を持たれていないことくらい知っているだろうから僕の態度を気にしないだろう。
セブルス・スネイプは面白くて、そして楽な相手だ。
それからなんとなく僕とスネイプは雨の夜に、彼が嫌う飛行術の実技が行われるこのグラウンドでとりとめもない話をするのがちょっとした定例となった。
こうして僕と彼の奇妙な関係は始まった。
*)久しぶりのリマセブ小説です。CP話ではない気もしますが・・・。
タイトルと題名が微妙に合っていないのは毎度のことなんで気にしないでください。なんだか中途半端なところで終わっているのはもしかしたら続きがあるかもしれないからです(汗
頭が大事っていう考え方は高校の近代論もしくは東洋と西洋との比較の評論にしつこく出ていたので入れてみました。高校生以上の方はきっと聞き覚えありますよね。
たしか、頭(=理性)が他の体の部分を支配していると言う考え方が西欧(近代)で腹で物事を考えるというのが東洋だった気がします。
この二人って学生時代あんまり接触なさそだなぁ。でも何かしら接触ないと(あの事件は除外で)大人になってからリマセブができないしーと思って書いてみました。
・僕はグリフィンドール〜の箇所はアヴリル・ラヴィーンの「Sk8er Boy」に触発されて(おおげさ)
(2004.7.1))