あまりの迫力に私はとっさに返事を言えなかった。
「黙っていないで何とか言ったらどうだ?」
と言いつつ枕の下から杖を取り出して私に突きつけている彼。これは生命の危機だ。何か言わないとマズイ、非常にまずい。
「いや、この『秋の味覚スペシャルチョコレート〜最高級チョコレートと栗・サツマイモ・柿・松茸の共演による五重奏〜』は発売から大体10分で売切れてしまうほどのレアものなんだよ。しかも販売日が1年にたったの1日なんだ。私はもう7年も前からこれを買うために血のにじむような努力をしてきたんだけど、どうしてなかなか世の中のおばさん達はすごくてね〜。結局ようやく8度目の正直ってやつでこの『秋の味覚スペシャルチョコレート〜最高級チョコレートと栗・サツマイモ・柿・松茸の共演による五重奏〜』を手中にできたってわけだよ」
「・・・」
なぜか無言の彼に私はなおも状況説明という名の言い訳を続ける。
「ところが、ようやく長年の夢『秋の味覚スペシャルチョコレート〜最高級チョコレートと栗・サツマイモ・柿・松茸の共演による五重奏〜』を手にしたはいいがなぜか私はその日お金を全く持っていなくてね。それで、後払いにしようと思って店員さんにそういったんだよ。そうしたら」
「そうしたらその店員におまえのような貧乏人は信用できない、と言われた」
「そうそう。よくわかるね。全く、少しばかり身なりがみすぼらしいからといってあーいう態度はよくない。僕じゃ信用してくれなさそうだったんで仕方なく君の名前を借りることにしたんだよ、ホグワーツ魔法薬学教授セブルス・スネイプの名をね」
「ほーう。ではなぜ、それを私に今まで言わなかったのかね。ルーピン教授?卿が言ってくれなかったおかげで私は昨日の職員室の笑いの的でしたよ。あのスネイプ教授がチョコレートを、しかも、期間限定などという低俗な宣伝をしているくせに値段が馬鹿みたいに高いことで有名なあのハニーデュークスの『秋の味覚スペシャルチョコレート〜最高級チョコレートと栗・サツマイモ・牡蠣・椎茸のカルテット〜』を購入するとは」
「セブルス、牡蠣じゃなくて柿だし椎茸じゃなくて松茸だよ」
「要らんつっこみはしなくていい!!」
「いやー、でもおいしかったなぁ。とくに松茸味が最高だったよ。松茸って知ってる?セブルス?」
「フン。私を誰だと思っている?松茸というのははるか東の島国・日本の菌類だ。日本はキノコ王国と言われ180種類以上あるがその内、食卓に上るのは20種ほどで、「におい松茸、味しめじ」と言われマツタケはキノコ類の王様である。その特有の香りの高さにとりわけ日本人は秋の季節を感じる。最近は土地開発や下草刈りの手入れ不足、農薬、気候と複雑に重なり、収穫不足で一般庶民には高値の花になってしまっている。旬は9月末から10月にかけてだがその年の気温や雨量によって多少のずれや収穫量の違いがでてくる。俗にマツタケは上方(ジャパンの西側)の味といわれ、昔は神嘗祭(かんなめさい)の10月7日が近づくと、京都(長らくジャパンの都だった古都だそうだ)の街中はマツタケの香りがあふれていたらしい。洛西龍安寺産というところのものが特に優れ、丹波、摂津、岡山、広島などのジャパンの西側の地が主な産地だ。人工栽培の研究が盛んだがいまだ量産には至っておらず、韓国、台湾、カナダから輸入しているらしいが、やはり香りに欠ける。松茸はその芳醇な香りが命なのだ。とくに日本人は松茸の香りが大好きだ。マツタケオール、桂皮酸メチルなど香りの主成分のエッセンスを人工的に作って売っているほどらしい
「うわ〜。さっすがセブルス!博識だね!!じゃあ椎茸についてはどうなんだい?」
ここでさりげなくセブルスの意識をそらせることができたら私の勝ちだ。
果たしてもう白み始めた空に投げられた見えざるコインは裏か表か
「椎茸か。椎茸とはな日本や中国で代表的なキシメジ科のキノコで・・(以下省略)・・・」
どうして君はそうやって私の欲しいものが、言葉がわかるんだろう。‘人狼’という体質上、結構、他人に内心を悟らせないことには長けているはずなのにこの人の前ではそれもハニーデュークスの上質粉砂糖を入れてしまえばあっというまになくなってしまう珈琲の苦味のようだ。
賭けは私の勝ち。
ー君の玲瓏たる美声を朝っぱらから聴けるなんて私はなんて幸せ者なのだろうー
*
ようやくリマセブが書けました!領収書の日付と同じ日に書き始めたのにどうやって終わらそうかと悩んでたらすっかり時間が・・・。
とりあえず、リーマスはセブに尻にしかれているようでやっぱり一枚上手でしたって話ということで。
*実はポカミスをやらかしているのですが、若気の至りということで直していません。気づいた方は「こいつアホだな」と鼻で笑ってください。
<幸福なわけ>