痛めつけるのも甘やかすのも僕だけでいいんだよ。
僕以外の人間が彼を傷つけるのを見るのは腸が煮えくり返る。
僕以外の人間が彼に優しくするのを見るのは怖気が走る。

だって彼は僕のものなのだから。
愛するのも殺すのも僕だけの特権。

他の誰の侵入も許しやしない







エロスの衝動 1






ジェームズの親戚には村八分にされていた男がいた。その男に親兄弟はなく、伴侶もなく常に一人だった。
幼い頃から病弱で学校に行けず親しい友人もいない。
彼は闇魔法に傾倒していたが大した腕でもないので他の闇の魔法使いからも取り締まる立場である魔法省からも黙殺され続けていた。
困ったのは親戚で、彼が病弱なことを理由に一族の別荘地に軟禁した。

ジェームズが彼に会ったのはほんの偶然

彼の精神は病んでいて、今思えばとても正気ではなかったが、ジェームズは正気でない人を見るのが初めてだったのでこういう大人もいるのだなと思って彼の言動を信じ込んでいた。

「この研究が完成すれば私以外のすべての人間が息絶える」
「自分は偉大な魔法使いだが魔法省の陰謀で力を奪われ幽閉されている」

彼の言う言葉は誇大妄想と自分以外の人間に対する憎悪に溢れていたのでジェームズは、
「人間が嫌いなの?」と聞いた。
すると彼は、
「俺以外の人間は死んで地獄に落ちればいいんだ」
と嬉しそうに言ったのでジェームズは恐ろしくなって家を飛び出した。
それがジェームズ・ポッターが初めて感じた恐怖だった。
男はジェームズを追いかけてきた。必死になって走るが子供と大人である。すぐに追いつかれて捕まりそうになる。丁度そのとき、前方に光が差した。
森を抜けたのだ。
男が行動できる範囲は森までらしく結界に触れた彼は痛さでのた打ち回っていた。

数年してこの出来事をすっかり忘れたジェームズはまた森に入った。
森の奥の家にはまだ男が住んでいた。男を見た瞬間に数年前のことを思い出したジェームズは殺されはしないかとパニックになりかけた。だが、男は死の渕にいてジェームズの存在にすら気づかなかった。

そしてただ、誰かいないのか、死にたくない、苦しい、誰かいないのか、と繰り返す。男は最後に、誰かそばにいてくれ、と細々とした声で呟いて息絶えた。




穏やかな初夏の昼下がりにするような話ではなかった。


「それで、その話を僕に聞かせて何が言いたい?僕が闇魔術に傾倒したらそうなるとでも言いたいのか?だとしたら大きなお世話だし随分な見当違いだな」

それまで黙ってジェームズの話を聞いていたセブルスは醒めた表情でジェームズの言わんとしたことを推察して一笑に付した。
腰掛けている楡の木が作る日陰のおかげで歪んだ口元が強調された。
もう夏だというのにそこだけ冬のトンネルのような瞳は何も映さず、その頬は白いガーゼで覆われていて、かかる黒髪も相まって彼の顔を一層白く見せていた。


  ジェームズはセブルスの隣に座った。セブルスは嫌がるそぶりをしたようだが、そんなことでやめるジェームズではない。まじまじとセブルスの姿を見る。セブルスは今、視力を失っており、いつもなら気づいて嫌がるだろうジェームズの視線に気づかないでいた。
 爪先から頭まで、それこそ嘗め回すようにジェームズは見た。きちんと磨かれた靴はスリザリンの懐古主義を象徴するオーダーメイドのドラゴン革のローファーではなく、丈夫で長持ちすることで評判の大量生産される市販の革靴だ。制服もきっちりと着込んでいるローブも何の変哲もない標準的なものであったが、きちんとアイロンがけされておりどこにもほつれがない。
 しかし、着ているセブルスは反対にボロボロに擦り切れていると表現していいような状態だった。湿気を含んだ肩までの黒髪は不揃いで、額と頬に新品のガーゼをつけていた。包帯に巻かれた左腕は首から吊るされていた。その首にも絆創膏が貼ってある。


全て昨日、ジェームズとの決闘まがいの争いでついた傷だ。

原因であるジェームズはほぼ無傷でピンピンしていた。


「そうじゃないよ。ただね、どんなに人を憎んでいる人でも自分ではないほかの人間を必要とするんだなって僕はその時に思ったんだ。君だって例外じゃない。そしてね、君はとても理想が高そうだから僕がそれになってあげるよ。どうせ誰かを必要とするんだったら僕でもいいよね?」

怒りがセブルスの顔を赤くした。

「っふざけるのも大概にしろ!此処最近ぼくに付き纏ってくるだけでもうんざりなのに、そういう言葉はおまえに黄色い声をあげている女子どもに言え!」

苛烈なセブルスの口調にジェームズは意に介さなかった。

「じゃあ、言い方を変えるよ。君のことが好きだ。君の事を考えると、いや、君が存在するという事実が僕の胸だか腹のあたりをぐるぐる廻らせて、苦しいんだ」

いつものジェームズの声とは違い、最後の言葉には真剣さが含まれていた。

「ただの腹痛だろう」

もうこの話は終わりだと言わんばかりにセブルスは顔を背けた。

「はぐらかさないでくれ!とにかく!僕のことを聞いて!」


息を吐いて一言





「君を僕のものにしたいんだ」













*)久しぶりにジェスネですが、ちょっと気に喰わないです。もしかしたら修正するかもしれません。