た れ そ か れ
夢を見た。
黄昏。所謂、逢魔が時のホグワーツ城。
セブルスのようでセブルスじゃないような確実に自分よりも年を取った男と制服姿の自分が中庭で楽しそうに談笑している。今よりも随分と年齢の高いセブルスはしかめっ面だが僕にはわかる
とても楽しそうだ。
僕はなぜか彼を先生と呼んで、敬語まで使っている。
魔法薬学のレポートについて僕は質問していた。
おかしいな、たとえ相手がセブルスであっても・いや・それだからこそ余計に、こんな初歩的なことくらいで僕は他人の力を借りないのに。
プライドをなげうってまでセブルスとの会話を引き伸ばす妥協と合理性を夢の中の僕は持ち合わせていた。
僕の愚かでそれでも誠実かつ正直な質問に年をとってもそこだけ変わらない黒く艶やかな動きのない髪を揺らしてセブルスは上機嫌に応えた。もちろん、意地の悪い彼のことだから馬鹿正直に正答を教えない。まずきわめて初歩的な質問をする。僕は答える。正解だ。それから応用問題。これも正解。さらに応用。これもかろうじて当たり。
まったく、この世界の僕は現実世界に薬学の知識を置き去りにしてきてしまったらしい。
そうして何度も初歩のプラトン的な問答を繰り返してようやく僕は答えにたどりついた。
ありがとうございます。先生
心底嬉しそうな笑みを僕は浮かべて、またセブルスを「先生」と呼んだ。
まったく、おまえはどうしてそうやっていつもいつも人の助けを安易に借りようとするのだ。魔法界の英雄が聞いて呆れる。
英雄って何だ?僕はいつのまにかグリフィンドールの花形チェイサーから随分と出世したようだ。
その呼び方はやめてくださいよ。きちんと名前でよんでください。呼ぶんだったら。
僕は拗ねた。そうだ、名前で呼んで欲しい。グリフィンドールとかポッターとかそんな僕の個性を無視したような固有名詞ではなく、僕自身を正確にあらわす名前で。
初めて、僕は夢の中の僕と心をひとつにできた気がする。
そうだな
うわ、すごい笑顔。こんな顔は見たことがない。こんなやさしそうな穏やかな顔は、まるで慈しみまで湛えているその顔を僕は見たことがない。
きっと夕日のせいに決まっている。陽に照らされた彼の顔はとても血色がよさそうに見えるから。
次からは自力でやるように。グレンジャーにも頼るんじゃないぞ
くしゃり、と僕の頭を無造作に撫ぜた。
その手は僕の知っているセブルスの手よりも一回りは大きくて、薬品に汚されていた。
グレンジャーなんて女の子も僕は知らない。
セブルスに頭をガシガシされて、僕は声をたてて笑った。
僕は、彼は、オレンジ色の日の光に照らされてこれ以上のものなんてないというくらいの幸せそうな顔で笑っていた。
どうして僕は僕の笑顔を見ることができる?
そんなことは鏡を使わなければ不可能なのに。そしてそんなものはそこにはなかった。
セブルスの手が僕から離れた。
乱された髪は普段は見えない額をあらわにした。
真っ赤な夕日に照らされている。
額に稲妻が走っている。
おかしいな。そんな傷をつけた憶えはないのに。
あまり調子に乗ってると減点するぞ。
そう言ってセブルスは立ち上がった。困ったような愛しいような悲しいような様々な色を混ぜ合わせたような顔を向けて。セブルスが口を開いた。
行くぞ、ハリー。
あぁ、こんなの聞き間違いに決まっている。
セブルスが僕以外の名前を呼ぶなんて
困惑と悲哀とそれでも確実に愛情を孕んだ声音と穏やかな笑み。
そんなものは知らない。
やさしく撫でる、汚れた手も知らない。
知らない。知りたくなんてない。
知りたくなかったのに。
待ってくださいよ!セブルス!
僕の知っているセブルスのようで知らないセブルスと僕のようで僕ではない誰かは夕闇の彼方へと消えた。
*)一応、三角関係でした。当サイトではたまにジェームズも痛い目にあいます。
去年のアンケートでリクエストいただいたジェスネ前提ハリスネです。微妙にリクこなしていないような気がしますが、この作品でお応えしたということでよろしいでしょうか?