3.



「こんなところに呼び出して、何か御用?」

うららかな土曜の午後、グリフィンドールの赤毛の魔女を待っていたのは同じくグリフィンドール生だった。


「単刀直入に言うと、卒業したら結婚してほしいんだ」

教科書を借りる時と同じ気軽さでプロポーズをした同級生にリリーは瞠目した。

「本気で言ってるの?」

「本気だけど?」

「ごめんなさい。ジェームズ。私、好きな人がいるの」

「好きな人ってこれ?」

ジェームズがローブのポケットから取り出したのは一枚の写真だった。被写体の動かないマグルの写真。それは数年前、ジェームズがリリーから借りたマグルのカメラで写したものだった。
そこに写っていたのは―

「君が落としたのを拾った時は、あの時の売れ残りだと思ったんだけれどね。でも、写真のほとんどはセブルスが頑張って燃やして、プレミア物で影で取引されてるから、売れ残りなんて存在しないわけだ」

自分が落とした、と聞いて慌ててリリーはいつも写真を挿している詩集を探る。そこにはきちんとセブルスの写真が挟んであった。

「やっぱり、セブルスだったんだ。あ・ちなみにこれはある人から拝借してきたものだよ」

見事にジェームズに引っ掛けられたことに気づいたリリーは悔しさのあまりジェームズを直視できなかった。

「健気だね。セブルスが君を選ぶことはないのに」

土足で自分の心に入り込んだジェームズに怒りを覚えるリリーだが、醒めた部分ではそんなこととうにわかっていた。

セブルスはリリーに見向きもしなかった。彼女の容姿、性格、能力が気に喰わないというわけではない。マグルだから、グリフィンドールだからというわけでもない。ただリリー・エバンスという人物がセブルスの心まで届かなかっただけ。そして、セブルスの心を手に入れたのは目の前のジェームズだった。セブルスはジェームズを誰よりも憎んでいたが同等に愛してもいた。

一体、私のどこが悪かったというのだろう!

それはきっとセブルス本人にも答えられない、心の奥底で決定されたこと。

リリーがセブルスに選ばれなかったのはリリーに非があるわけでもない。だれが悪いわけでもない。
理由がない。
その事実こそがリリーを傷つけた。



「だからね―」
セブルスの写真を大事そうにポケットにしまってジェームズは続ける。

「 取引をしよう君と僕で。そうしたら僕は君の望むものをあげよう。

―だから君には僕の望みを叶えてほしいんだ」


憎ったらしいほどの笑顔で彼は私にそう言った。

嗚呼、なんてことだろう。


数年前の談話室でのやりとりが甦る。

あの時からこの男は蜘蛛のように粘着質な糸を張り巡らしていたんだわ。


「僕といればもしかしたらセブも君の事、見てくれるかもね」

そうでもしなきゃむりだよ君はとヘイゼルの瞳が語る。


売り言葉に買い言葉。いいわよ、のってやろうじゃないの。


私に貸しを作らせた罪は重いわよ。しっかり尻に敷いてやるから覚悟しておきなさい!!



―それでも、あんなこと、言わなければよかったなんて思わない。













*)
学生時代ギャグ話と見せかけてジェリリプロポーズ話でした。
ここから「永遠不変なるもの」に繋がります。

アイスクリーム→氷菓子→こおりがし→こうりがし→高利貸しという明治時代の遊び言葉です。
タイトルを活かしきれていなかったかな、と思いますが基本的にタイトル付けはフィーリングなので反省しない。(そして繰り返される悲劇)