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ようやくセブルスの写真を手に入れたジェームズは上機嫌だった。

そして、その裏で出来上がったネガを使ってセブルスの写真を売りさばくリリーの姿があった。
どうやら、リリーの取引とはカメラを現像込みでタダでジェームズに渡すかわりにネガの所有権を自分に持たせることだったらしい。
シリウスなどはなぜ、リリーがそんな提案をしてきたのか疑問に思ったが、察しのいいジェームズとリーマスはすぐにわかった。

実を言うと、蛇寮の魔法薬学&呪マニアのセブルス・スネイプは他寮の人間はともかく、自寮内ではそれなりに人気があった。
そして、写真嫌いなセブルスが魔法界の写真に大人しく写ったままでいるわけはない。彼は自ら学生証に張るための証明写真ですら枠外から抜け出してしまったことがあるほどの徹底振りだった。
結論をいうと彼が収まった写真はとても貴重なのだ。

ジェームズとリーマスの考えを証明するかのように、売り子のリリーにはたくさんのスリザリン生(一部OB含む)が群がっていた。


「何をやってる!」

大盛況な中庭に当の本人であるセブルスがやってきた。

「あら、セブルス」
「あらじゃない!エヴァンス、グリフィンドールでも君だけはまともだと思っていたのに、やはりポッターどもと同類だな!」
「やだ、あの鳥の巣と一緒にしないでよ。まだ彼らよりも話がわかるタイプです。肖像権で3割くらいの分け前は献上するつもりだったわよ、私」
「そういう問題ではない!」

セブルスの怒り8割、羞恥2割で構成された怒声も何その、リリーは馬の耳に念仏、糠に釘であった。

「ミス・エヴァンス。もしネガを私に渡してくれると嬉しいのだが。言い値の倍は出す」

「先輩、あなた去年に卒業したハズでしょう!何してるんですか!」

「可愛い後輩の様子を見に来ただけだ」

しれっと答えたのは去年までスリザリン寮に帝王の如く君臨していたルシウス・マルフォイ。卒業して家督を継いだが、金持が暇人なのはいつでもどこでも変わらない。彼はここのところ1ヶ月に2回は母校を訪れている。



羞恥心と何より怒りで真っ赤に歪んだセブルスの顔を見て、ジェームズは手を打って喜んでいた。
ジェームズもいい具合に腹黒くサディストだなぁとそれを見てリーマスは苦笑した。
そして、怒り7割ヒステリー3割の高い怒声をジェームズとリーマスの耳は拾った。

「ポッター!貴様が諸悪の原因か!!今度と言う今度は絶対に許さん。杖を抜け」

セブルスはジェームズを発見して事態の因果を悟った。
具体的な根拠もないのに、ジェームズを事の発端と決め付けるのは、もし彼がスコットランドヤードの刑事だったら容疑者側に訴えられそうだが、間違っているようで実は極めて論理的かつ現実的な思考の下に行っているのだ。

セブルス・スネイプにいたずらを仕掛けるのはジェームズ・ポッター率いるグリフィンドールの4人組のうち2人、ジェームズとシリウスくらいしかこのホグワーツには存在しないのだ。そして、こんな手の込んだいたずらを、頭の回転は速くても回路は直線と直角という単純な構造のシリウスにはできない。
つまり、ジェームズ・ポッターが仕掛人なのだ。もっとも、セブルスがそのような手順で判断を下したのかは誰にもわからないが。日頃からジェームズのいたずらの被害者である彼の直感なだけかもしれない。

憤怒の形相でセブルスは杖を抜き、まだ丸腰のジェームズとジェームズから距離を置きつつあるリーマスに向かって怒りの鉄槌を落とした。

感情のふり幅が常よりも大きいため、精度は落ちているが威力は普段の3割増しであった。中庭の美しい緑の芝生が黒く焦げる。人3人分くらいの大きさの芝生がごっそりと焼けたのを見て、さすがにジェームズはマズイ、と感じた。応戦しようにも人やら物やら障害物が多すぎた。やりあったら事態が収拾する頃には中庭がなくなって更地になっていそうだ。


とりあえず、セブルスの頭が冷えるまで

逃げよう。

作戦を決めたジェームズに迷いはなかった。

それから20分ほど頭に血の上ったセブルスは、まるで箒に載っているときのような速さと身のこなしで逃げ回るジェームズめがけて攻撃呪文を撃っていた。

中庭はスリザリン生阿鼻叫喚と呪文の衝撃で舞い落ちる写真でひどい有様だった。
セブルスはどさくさにまぎれて宙に舞う写真が視界に入るとそちらを優先して焼いていったので火の粉は散るし、精度の落ちた魔法に運悪くなのかはたはセブルスの故意になのか、当たってしまう生徒もいた。

それはセブルスの頭の血が体のほかの部分に正常に散っていくまで、もう少し詳しく言及するとマクゴナガル教授が血管の浮いた額で中庭(すでに廃墟)にやってくるまで続いた。



その喧騒の中で、幸運にも灰になることを逃れた写真がヒラリと赤と黄のネクタイをした少年の足元に落ちた。
鳶色の髪の彼はそれをそっとローブの一番奥の大きなポケットにしまった。とても大切そうにいたわるように。


それを見ていた者はその場の誰一人としていなかった。