How bittersweet it is !


歩くたびに、サクサクと音がする。さすがに冬の一番寒いころになると日中でも霜はおりたままらしい。昼になっても溶けない霜柱を踏みならし、僕はあてもなく町をさまよう。
海が近いこの町の冬は今まですごしてきた故郷よりもだいぶしめっぽく暖かい。冬の大半は雪に埋もれていた母校が懐かしい。歩いていきた坂を見下ろすと左手に港と大きな橋やビルが見える。右手は工場地帯でいくつもの煙突から煙がでていた。
時々、冷たい風が吹いてめがねを曇らせる。今まで過ごしてきたところよりも暖かいとは言っても冬は冬だ。学生時代から愛用している赤と黄色のボーダーのマフラーをきつく巻きなおし、冷たい風が体に入ってこないようにする。
坂を上りきると公園だ。遊具は申し訳程度にしかなく、遊ぶ子供も寒さのせいか皆無だ。夏には浮浪者が占拠しているベンチもいまは無人だ。
カップルがよくいる奥の見晴台も人影はなく、公園には僕一人だった。見晴台の手すりに身を預けると海がよく見えた。

夜景の美しい夜ならともかく、工業地帯や大型船のひしめく海はけっして美しい景色ではない。よく言えば都会的、悪く言えば雑多で混沌としたこの海を眺めるのが僕は好きだった。
海を見つめながら何度となく繰り返し、叶っていたかもしれない願いに思いをはせる

いまは冬だから、寒がりのあなたのために僕はホットミルクを朝用意してあげたりして朝を過ごし、昼間はきっとあなたに合わせてこんな散歩なんてせず、あなたの温度も湿度も管理された床春の研究室で本でも読んでいるのだろう。
この公園の木が淡いピンクの花を咲かせるころにはあなたの寒がりも治るだろうから、一緒に出かけて花見を楽しみたい。
夏はどこかに遠出してもいい。きっとあの国にはほとんどいなかった蝉の声にあなたは顰め面をするのだろうね。
秋になったら、あなたの食欲も回復するだろうから、みんなを呼んで食事を楽しむのも楽しそうだ。

あなたがいたら、きっとそんな風に一年をこの地で過ごしていたのだろう。
あなたは社交的では決してないけれど、先生をしていたくらいだ。きっとこの町の人と一言二言交わす仲になっていただろう。もしかしたらご近所づきあいなんてものに発展するかもしれない。でも、実際はあなたがいないから、あなたを知る人はここにはいないし、こんな東の果ての地で僕は一人何をすることもなくただひたすら海を見つめているのだ。

二人の希望に満ち溢れているはずだったこの土地に一人でいると、過ごしてきた故郷よりもまざまざとあなたの不在を教えてくれた。













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無性に書きたくなって書きなぐった
ようやく7巻後の設定で書けるようになりました。
まぁ、まだセブの件を作品にできるまで受け入れきれないんだけどね。
ここまでが限界。そしてタイトルの文法が間違っているかもしれない。