フモレスケ






ピアノの音がした。

曲はユーモレスク

しかも人が弾いている音だ。なぜわかるかというと調子が外れていてまるで拍というものが取れていない。それでもそのきまぐれな調子の弾き方はこの曲に妙に合っていた。

誰が弾いているのだろうと興味をそそられてセブルスは音のするほうへと進んでいった。
いくつもの見覚えのない扉を開き、人々に忘れ去られうち捨てられた部屋を後にしてようやくセブルスの左手は最後の扉のノブを握った。どうしてその扉が最後のものなのか知っているのかを彼は知らなかった。



見覚えのない廊下や扉に入ってはならない。おまえさんたちはきっと  に囚われてしまうだろうから



いつか、おそらくこの学校に入学する時に、ダンブルドアに言われたはずだった。実際に彼はそう言われてから2年間それを守っていた。それなのに3年目のこの夜セブルスは破った。

躊躇いはなかった。

彼はそれを開こうとする。

左手で
右手はどうしてか動かなかった





ゆっくりと開けた




音が止んだ


代わりに、声がした。



「会えてうれしいよ。半純血のプリンス」



この時、彼の頭の中ではダンブルドアの忠告が響き渡っていた。






「見覚えのない廊下や扉に入ってはならない。おまえさんはきっと闇に囚われてしまうだろうから」





声の主の瞳と同じ色の絨毯を踏みしめながらセブルスは歩いた。

真っ直ぐと暗闇に向かって





その時も彼は躊躇わなかった。ただ右手だけが動かなかった













*)
イキナリ6巻ネタ。
ありきたりですが、西洋の左手=邪、右手=善という定義を元に。
フモレスケ=ユーモレスクのことです。