舞踏の誘い







「クリスマス休暇中に舞踏会ですって?」
こんな時期になって何を言い出すのだろうか。彼女の灰色の瞳には学校の計画性と危機意識のなさに対する微量の怒りと蔑みが込められていた。

「もう、決定事項だよ。ミネルバ」
「いつ、どこで、どうして決まったのかしら」
声に温度があるとしたらきっとこの声は軽く氷点下を越しているだろう。

「一昨日の午後5時、校長室で、クリスマスのイベントのために決まったってことだ。僕もさっき初めて聞いて、君に伝達するようダンブルドアから言われたのさ」

ダンブルドアもあれで中々の策士だと思う。彼女の怒りに当てられたくないのだ、彼は。そして、あの変身学教授が僕に彼女にこの件を伝える役目を指名したのは、僕が彼女の宥め役の最適任者だからだろう。その点もよく見抜いている。寮同士はライバル関係でお世辞にも仲が良いとは言えないが、彼女の一番の理解者は僕である。

「因みに監督生は全員強制参加だって」
「ドレスなんて持っていないのだけれど。もちろんそこのところは学校がどうにかしてくれるのでしょうね」

ミネルバの声に殺気が籠もっていたのでそれに関して僕は自分の身の安全と精神衛生のために何も言わないでおいた。彼女は怒るとそれに対して自分の怒りがどれだけのものか、これから自分が起こすであろう行動のあらましを淡々と絶対零度の声で語るのだ。まともに最後まで聞いた人間は教師も含め2,3日は悪夢に魘される。


++数日後++


魔法薬学から次の教室に向かっている途中ミネルバがいつになく思案顔でグラウンドを横切っていた。金曜のこの時間に彼女がここを通ることを知っている僕はさりげなさを装って彼女に話しかけた。

「ドレスの調達はできたんだろう?」
「あぁ、吃驚した。いきなり驚かさないでよ。ええ、ダンブルドア教授の知り合いが若い頃に着ていたドレスを貸してくださるって。なんでもその方のお家はイギリスでも大層な旧家みたいでドレスの類は腐るほどあるそうよ。代々グリフィンドールの家系だから寮生ならそのままいただいても構わないとまで仰っているみたい。もちろんそんな図々しいことしないけれどね」
「よかったじゃないか。ついでなら貰っちゃえば?たくさんあるうちのひとつなんだろう」
「あのね、一体いくらのドレスだと思っているの?アンティークものらしくて相当、値が張るんですって。きちんとお返しするわ」
「なぁんだ、もったいない」
「その件はこれでおしまい。それにしてもどうしよう」
「一体何を悩んでいるんだい?」
ミネルバは押し黙っているが言わずともわかる。一緒に行く相手がいないのだ。そうだろう、そうなるように僕が根回し(政治用語)したのだから。
「なんなら、僕と踊ろうか?君を壁の花にするのはもったいないしね」
と少し照れながら僕は提案した。ここはさりげなく言うつもりだったのだが後半部分が少し気障だったかもしれない。
「本当?じゃぁ、御言葉に甘えていいかしら」
おそらくそう言おうとしたマクゴナガルに大男が飛び込んできた。
パッフルパフの劣等生だ。
何をやっても失敗ばかりの鈍間で間抜けな木偶。
「父ちゃんが折角なんだから、とドレスローブを苦労してよこしてくれたんだけれども一緒に出てくれる相手が見つからねぇんだ。どうしよう、ミネルバ」
大きな図体が台無しである。彼は今にも泣きそうだった。この男は何かにつけて自分の寮の監督生でもないのにミネルバに頼った。ミネルバの方もとくに邪険には扱わず彼を救い続けて今日に至っている。
「仕様がないわね」
でも彼は少し遅かった。彼女は僕と一緒に行くのだ。大体おまえでは彼女の足を何度も踏んづけてしまいには踊るどころか歩けなくさせてしまうだろう。
「ごめんなさい、トム。私は彼と出るわ」
「え、どうして?」
「だって、あなたは他に相手がいくらでもいるでしょうけど、彼に付き合えるのは私くらいしかいないわ。彼のお父様が折角ローブをご用意してくださったのに相手がいなくて踊れないんじゃ、お父様も可哀相でしょう?」
そういわれると僕は何も反論できなかった。
やさしくて賢いミネルバ。
でも君はひとつだけ間違っている。僕が踊りたいと思っている相手はひとりだけだ。全校生徒、ホグワーツ全教授の前で論文を発表する時ですら僕の心の臓は穏やかなのに、「僕と踊ろうか?」この一言を言い出した時は音の激しさで体までも砕けるかと思ったほどだった。

「ありがてぇ!」
そういって喜ぶ大男と彼を母親のように穏やかにニコニコと見つめる彼女を視界の端に捉えつつ僕の思考は真っ黒に染まった。


ダンスパーティーなんてなくなってしまえばいい。いや、それよりも忌々しいハグリットを僕と彼女のホグワーツから消してしまえ。




そのためにはどうしてやろうか。



















*)
原作ではトム、というか俺様はマクゴナガル教授よりも10歳ほど年下らしいのですが当サイトでは同級生ということにしておいてください。
というか随分と若かりし頃の俺様は間抜けですね<
自分で書いておきながら他人事かよ
まぁ、秘密の部屋での50年前の事件のきっかけのひとつということで解釈してください。

思いついてからたったの1時間で話が書けたのですが、どういうことなんでしょう?まさか、クリスマス後なので父と子と精霊の皆様(アタナシウス派の方はかならず3人セットで)が私の頭に行幸されたのでしょうか<
文法違うから