時々この人はわけのわからないことを言う。それでも当時の私は彼のことが好きだった




つまり財産保有システムの刷り込みだよ。魔法族というものがどういうものかということを7年間かけてじっくり刷り込むんだ。これによってマグル出身者も自動的に魔法族の価値観を刷り込まれる。そして彼らはもはやマグルの世界では適応困難な人間にされてしまう。
なかなかすばらしいシステムだとは思わないか?



ある日突然魔法の世界から手紙が来る

11歳の初夏にホグワーツという魔法界の学校から入学書が送られてきた。自分が魔法使いであると突然告げられて私はひどく戸惑ったが入学書の裏に成績優秀なら奨学金をもらうことができるという文を見た時、私は何としてでもホグワーツに入りたいと思った。



当時のイギリスでは私のような労働階級の子供は初等教育しか受けられなかった。
長引く不況で父は職を失い、母と一番上の姉の工場での稼ぎと2番目の姉の奉公で家計が成り立っていた。私は一番下の妹と弟の世話をしながら1歳年上の兄の鉄屑漁りを手伝っていた。
とてもではないが私が中等教育機関に進めるわけがなかった。私の下にはまだ3人の妹と2人の弟がいたのだから。


初等教育が終わったら私も姉と同じ工場で働くことになるだろう

正直言って私は姉や母のような生き方をしたくはないと思っていた。朝早くからくたくたになるまで働いて、家に帰ったら子供と夫の世話をし、内職を納入期限に間に合わせるため徹夜でする。これだけ働いても決して暮らしは楽にならない。


貧しい者はどんなにがんばっても豊かにはなれない社会だった

私は1年間自分にかかる費用と私が工場で稼ぐだろうと思われる金額を計算してみた。結果としてわたしがいてもいなくても家計はそんなに変わらないことがわかった。
父はともかく母と姉は私が受けるホグワーツでの教育が、将来、家族の生活を今よりはマシなものにすると思ってくれたらしい。


そしてその年の9月からは本当に魔法学校の生徒として魔法の世界に行けるんだ

容姿、頭脳、身体能力、彼はそのすべてにおいて誰よりも凌駕していた。それは人望においてもそうだった。他寮生に対しても変わらず接し、監督生としても教師の信頼を得ていた。

それが偽りの姿だと気づいているのは何人いたのだろうか。他人から見れば何でも揃っている完璧な人間だった。

彼は決して明るい性格とは言えなかったが陰気ではなく穏やかで静かな雰囲気の青年だった。
でも、よく見るとその目は何かに絶望しているような憎悪しているような目だった。全てに不満を抱いており壊してしまいたい、そういう昏い炎が燈っていた。彼の言うこと、やることに対して周囲がただのイエスマンと化していたのもそのせいかもしれない。



あの頃の私にとってその炎はとても魅力的に移った。私自身も魔法界、マグル界の当時の状況に不満を抱いていた。

「この世界を変えたいと思ったことはないかい?」


この言葉で私は卒業後も彼についていくことにした。
この人なら何かができるそう思ったのだ



黴臭い暗い魔法省の地下にある牢獄に彼は繋がれていた。




「私の最後を見に来たのかね?マクゴナガル教授」
彼は最後までヴォルデモードとして振舞うつもりらしい。



「そうですよ。ロード・ヴォルデモード」
ならば私も彼の最大の敵対者の片腕として振る舞おう。



「そうか。今回は君たちの勝ちだ。だがそう遠くない未来にまた私の意思を継ぐものが必ず出てくる。次も勝てるかな」



「そのときはその時よ。私には関係ない。私はただあなたをこの手で止めたかっただけ」




「変わらないな、君は。学生時代、私に異を唱えられたのは君だけだった。君だけが私を理解してくれている、そう思ったんだ。だから君に去られた時は結構辛かったよ」


「理解しようとしたわ。でも、できなかった。あなたの理想は私の理想とは相容れなかった。どうしてもあなたのやろうとすることは許せなかった」




理解できないなら友人としてそばにはいられない。だから彼を止めることが、敵対することが私にできる彼へのせめてもの意思表示だった。



「さようなら、ミネルバ。輪廻思想など信じないが、もし、生まれ変わったら君の生徒になりたいよ」


その顔があまりにかつて私が愛した青年に似ていたので処刑場に連れて行かれる前に彼に思わず言ってしまった。




「さようならトム。あなたのような生徒を持つのは御免よ。できるなら私の友人として生まれ変わってきて頂戴」





そして闇の帝王と魔法界中の人間に恐れられた男は私から、この世から消えた







−−−その何かがどういうことなのか考えもしないで−−−

君はこの学校が建てられた意図がわかっているかい?


そして今再び変わり果てた姿の彼と再会する

彼は変わった。いや、あれこそが彼の本当の姿なのかもしれない。

だが彼は、アレは私の知っているトムではないーー


自分の願望を他人に委託するのは恥ずべきことなのだと思い知ったのはその時だった。





私は彼から離れた



ホグワーツは本当に夢のような場所だった。天井までぎっしりと本がつまった巨大な図書館、知的探究心を刺激する授業、暖かな部屋、豪勢な食事(一般に家庭の生徒にとっては別に驚くことではなかったが当時の私にはごちそうだ)
ホグワーツの学生であることを神に感謝した。同時にここに来られない家族を憐れんだ。

自分は選ばれた人間だという選民思想が強烈に植えつけられる

*マクゴナガル教授とトムが同級生だったら?と考えた時に思い浮かんだ話。

上のほうの財産保有システムの刷り込みっていうのはホグワーツのモデルであるパブリックスクールの目的だったりします。
ただしイギリスの場合は家庭教育の方がそれに貢献しているようですが。
パブリックスクールをお手本にしたアメリカのプレップスクールの方が激しいらしいです。

マクゴナガル教授苦学生説プッシュです。
時代考証がメチャクチャだ!っていうツッコミはしないでください。











残ったのは灰だけ