彼ノ人 を 想う
act09/
「ずっと昔から、望んでいたものが手の届く範囲にあったとしたら、君はどうする?」
アイツにしては珍しく、意図の見えない言い方だった。
遠回りは好きではない。
「手を伸ばして、手に入れる」
「じゃあ、手に入れたそれを失くしたり、壊したりしてしまったら、どうする?」
「簡単だ。失くしたら探せばいいし、壊したら太乙真人にでも直してもらえばいい。宝貝でも壊したのか?」
「いいね。君はとってもシンプルで」
バカにされたような気がして、オレは怒った。
「ゴメン。君を貶したんじゃない」
「オマエはどうなんだ?」
「望んでいる物が手の届くところにあったら、オマエも手に入れようとするだろう」
「僕はたぶん、そのままにしておくかな。」
「なぜだ?」
「会うのが怖いから」
そこで、ようやくアイツの言う望んでいたものが、人だと気づいた。
「僕が本気を出して探せば、きっと会える。向こうも頑張って逃げるだろうけれど、最後には捕まえられるだろう。でも」
「でも?」
「手のひらで踊らされていても、よかったんだ。怖かったから」
「お前が何を怖がる?」
この島で一二を争うほどの強い奴が。まだ、オレはお前を地につけた事がないのに。
いつもならこの時間には必ずいるはずのアイツがいない部屋には既に補佐役である張茎と燃塔道人、太乙真人がいた。
「一通り探したが、蓬莱島のどこにも見当たらない」
「そうだとしたら、彼は―」
「神界かもしくはその先の地球、だな」
「太乙、すぐに元始天尊様に連絡を取ってくれ」
「はいよ」
「まて」
「どうしたのさ、ナタク?」
先週、改良されたばかりの乾坤圏を太乙真人の傍にある通信機器に向けた。
「ナタク!何をする?」
久しぶりに、オレに宝貝を向けられて逃げ腰の太乙真人にかわって、燃塔道人がオレを止めようとする。
「神界に連絡を取られると困るから、機械を壊そうとしているだけだ」
「追いかけて、追いついて、突き放されるのが怖いんだ」
そう言っていたオマエが追いかけようとしている。
張りぼての心臓の鼓動がウルサイ。
これは、太乙真人が言っていた「ワクワクする」ということだろうか。
恐れと立ち向かって、打ち勝ったオマエと対戦するのが今から楽しみだ。